古くから炎症とがんとには密接な関係があることが知られてきた。その代表例として、ピロリ菌感染による胃炎があり、この胃炎を持った人は胃がんになりやすいことが知られている。我々は、ピロリ菌に感染した人の胃では、感染していない人に比べて多くのDNAメチル化異常が誘発、蓄積されていること(Maekita et al., 2006, Ando et al., 2009)、そして、胃がんが多くできた人ほど、DNAメチル化異常の蓄積の度合いが大きいことを明らかにした(Nakajima et al., 2006)。また、実験動物を用いた研究から、ピロリ菌に感染した期間が長いほど胃に蓄積したDNAメチル化異常の量が多いことも明らかにした(Takeshima et al.,2017)。
DNAメチル化異常を誘発するメカニズムとしては、ピロリ菌そのものではなく感染により誘導された慢性炎症が必須であること、特にIL-1βやTNFαなどの炎症性サイトカインや一酸化窒素の産生が重要である(Niwa et al.,2010, Hur et al.,2011, Katsurano et al.,2012)。最近、IL-1βやTNFαは、NF-kBシグナル経路を活性化することでDNA脱メチル化酵素の発現低下を引き起こすこと、一酸化窒素は、DNAメチル化酵素の酵素活性を増強すること、これら2つの制御異常が同時に起こることで、DNAメチル化異常が強く誘発されることを解明した(Takeshima et al., 2020)(図1)。
以上の知見は、ピロリ菌による胃炎により、胃粘膜でDNAメチル化異常が誘発され、DNAメチル化異常が蓄積すると発がんリスクの高い状態(発がんの素地)となり、胃がんが発生してくることを示している(図2)。さらに、最近解明したメチル化異常誘発の分子機構は、胃がんの発生のみならず、IL-1βや一酸化窒素の産生を伴う慢性炎症が関与する肝がんなどの炎症関連がん、神経変性疾患、メタボリックシンドロームなど多くの疾患の発生に深く関わることが考えられる。

