喫煙は、がんの重要な危険因子であり、肺がん・喉頭がん・食道がんなどの発生を促進する。その機構としては、タバコ中に含有される発がん物質が重要と考えられている。我々は、食道扁平上皮がん患者では、がんではない食道粘膜でも、喫煙期間の長さに比例してDNAメチル化異常が蓄積していることを見出した(Oka et al., 2009)。食道扁平上皮がんが、長期の喫煙によりDNAメチル化異常(や突然変異)が蓄積した「発がんの素地」から発生してくることを示唆している。実際、発がんリスクとDNAメチル化異常と突然変異が相関している(Yamashita et al., 2018)。

食道がんとDNAメチル化
我々は食道扁平上皮がんにおいてメチル化された遺伝子を39個同定した(Oka et al., 2009)。これらのうち5個の遺伝子については、喫煙期間の長さとそのメチル化異常の量とが相関していることを見出した。食道がんのもう一つのリスク要因である飲酒については、DNAメチル化異常を誘発している知見は得られなかった(Oka et al., 2009)。多くのがんで、長期の発がん要因への曝露や慢性炎症により、DNAメチル化異常が蓄積した「発がんの素地」が形成されることが知られる。食道がんにおいても「発がんの素地」が形成され、その後、食道がんが発生してくる可能性が高いと考えられる。この「発がんの素地」は、食道がんのリスク診断に有用であるのみならず、予防標的としても有用と考えられる。
