薬物療法の劇的な進歩により、HER2陽性乳がんでは薬物療法のみで腫瘍が完全に消失する場合が多く認められるようになった。しかし、腫瘍が完全に消失しているか否かは外科的乳房切除が実施されて始めて判明するので、腫瘍が消失した人も含めて手術は全員に必要となっている。
そこで、我々は、東病院と共同して、腫瘍が完全に消失することを治療前に予測するマーカーを同定した。具体的には、化学療法前のHER2陽性乳がんについて、治療効果(病理学的完全寛解; pCR)の有無と関連して原発巣でDNAメチル化レベルが異なるマーカーをゲノム網羅的に解析した。このスクリーニングで得られた候補遺伝子8個のうち、HSD17B4遺伝子の高メチル化とpCRは検証用の別の症例群でも有意に関連した(Fujii et al., 2017)。
さらに、この研究の後、i)サンプルからがん細胞の単離を行い、ii)検体数を増加させ、iii)体細胞変異・遺伝子発現解析・DNAメチル化解析の3層オミクスによるスクリーニングも行った。検証、さらに再検証を行った結果、先に同定したHSD17B4メチル化のみが再現され、その有用性が確認された。HSD17B4メチル化と既知のマーカーであるエストロゲン受容体陰性とを組み合わせると、より高い特異度と陽性的中率でpCRを予測できた(Yamashita et al., 2020)。
現在、東病院の向井医長を中心とする前向き研究により、治療効果予測マーカーとしての臨床的有効性を確認するとともに(Yamaguchi et al., 2018)、なぜHSD17B4メチル化が治療感受性をもたらすのかの仕組みの解明を進めている。研究がさらに進み、マーカーが実用化され、治療感受性を上昇させる方法が見つかれば、HER2陽性乳がんの一部は「手術不要」になることが期待される。
