DNAメチル化異常も突然変異も、がん抑制遺伝子の不活化に重要な役割を果たす。しかし、DNAメチル化異常は、突然変異とは異なり、決まった遺伝子に起こりやすいということを、我々は明らかにしてきた。ピロリ菌に感染した人の胃粘膜では、特定の遺伝子がメチル化されているし(Nakajima et al., 2009)、喫煙歴が長い人の食道粘膜は、特定の遺伝子のDNAメチル化が多くなっていた(Oka et al., 2009)。
どうして特定の遺伝子がメチル化されるのかという仕組みに関しては、あまり使われていない遺伝子がメチル化されることを、以前から見出している。例えば、膵臓がん(Hagihara et al., 2004)、悪性黒色腫(Furuta et al., 2006)でメチル化された遺伝子は、もともと正常な細胞であまり使われていない(発現が低い)ものが多い。また、DNAメチル化マイクロアレイ解析を用いて、前立腺がんおよび乳がんでDNAメチル化異常を受けている遺伝子は、正常な前立腺および乳腺で発現が低いことを明らかにした(Takeshima et al., 2009)。
更に、正常細胞においてあまり発現していない遺伝子の中にも、DNAメチル化異常を非常に受けにくい遺伝子が数多く存在した。その理由を探るために、それらの遺伝子のエピジェネティックな目印を詳細に調べた結果、使える遺伝子の目印として働くヒストン修飾や、遺伝子を使う時に必要なRNAポリメラーゼIIというタンパク質が遺伝子のプロモーターに存在することが明らかになった(Takeshima et al., 2009)。つまり、今は発現していなくても、将来発現することに備えている遺伝子はDNAメチル化異常を受けにくいことが明らかになった(図)。
これらは、「遺伝子は、使っていれば錆び付きにくい(メチル化されにくい)」とも言える知見である。色々な食事をバランスよく取り、時々いつもと違う生活スタイルにすることが、色々な遺伝子を使うことにつながり、錆び付き防止に有効な可能性がある。
