『課題の解き方』

   問題Cの例



上図は問題Cを拡大したものである。ここでは省いているが、3630.9 Hzに見られるシングレットは
測定溶媒CDCl3中に微量に存在するCHCl3のシグナルである。
上図では3つのシグナルが存在している。高磁場側から、トリプレット、シングレット、カルテットである。

はじめに、それぞれのケミカルシフトを決定する。
  トリプレットの場合は、3重線の中で一番身長の高いピークである、621.4 Hzを採用し、Hz→ppmと単位を変換するために、
  以下に示す計算を行う。
  621.4 Hz ÷ 500 MHz(NMR装置の共鳴周波数) = 1.2428 ppm
  小数点以下第3位を四捨五入し、得られる数値(= 1.24 ppm)がケミカルシフト値になる。

  シングレットの場合は、ピークの頂点である、679.3 Hzを採用する。
  同様に単位変換、四捨五入をすると、1.36 ppmが得られる。

  カルテットの場合は、4重線の中で身長の低い両端のピークの平均値から得られる。
  (1871.1 Hz + 1850.3 Hz)÷2 = 1860.7 Hz
  このものを単位変換および四捨五入すると、3.72 ppmが得られる。


つぎに、カップリング定数(J値)を求める。
  トリプレットの場合は、3重線の中で身長の低い両端のピークの差を2で割ることで得られる。
  (628.4 Hz - 614.5 Hz) ÷ 2 = 6.95 Hz
  小数点以下第2位を四捨五入し、得られる数値7.0 Hzがカップリング定数になる。

  シングレットは分裂しないので、結合定数はない。

  カルテットの場合は、4重線の中で身長の低い両端のピークの差を3で割ることで得られる。
  (1871.1 Hz - 1850.4 Hz) ÷ 3 = 6.9 Hz
  小数点以下第2位を四捨五入し、得られる数値6.9 Hzがカップリング定数になる。


最後に、積分値を考察し、プロトンの数を求める。
  トリプレット、シングレット、カルテットの積分値はそれぞれ、0.0500、0.0244、0.0336と表示されている。
  これらは整数比で表すとどうなるだろう?
  実はシングレットの積分値はあまりいい値を示していない。シングレットを除外すると、
  トリプレット(0.0500)とカルテット(0.0336)は、ほぼ3:2である。これを元にシングレットの積分値を考察すると、
  トリプレット:シングレット:カルテット = 3:1:2と表せる。

問題Cではカップリングしているプロトンはトリプレットとカルテットのシグナル以外、存在しない。
したがって、その2つのシグナルは互いにカップリングしていることが明確である(隣接していると言える)。
鎖状化合物であれば、カップリングによる多重度は、隣接するプロトンの数(n)+ 1によって求まるので、
トリプレット(3重線)に隣接するプロトンは2つ(←カルテットに属するプロトンの数)、
カルテット(4重線)に隣接するプロトンは3つ(←トリプレットに属するプロトンの数)ということになる。

以上より、各ピークのプロトンの数がトリプレット(3個)、シングレット(1個)、カルテット(2個)と決定できた。
互いにカップリングしているトリプレットとカルテットは部分構造-CH2-CH3に対応し、
カルテットのケミカルシフト値がが3.72 ppmと低磁場に存在することから、酸素原子に結合していると考えられる。
残るシングレットは酸素原子に結合しているプロトンであろう。

したがってこの化合物はきっと、エタノール(CH3-CH2-OH)だ。