メディカルアロマセラピーの確立に向けた
エビデンス構築
アロマセラピーは、植物から抽出されたエッセンシャルオイル(精油)をその香りの作用に基づいて使用する伝統療法の一つであり、抗菌作用や抗炎症作用、抗ストレス作用など様々な作用を持つことが知られています。しかし、それらの作用機序を科学的に解明した研究はほとんどないため、アロマセラピーの効果を科学的に明らかにすることで、アロマセラピーを医療に導入するメディカルアロマセラピーの確立に向けた研究を行っています。
精油の持つ脳神経系に対する効果の検証
精油の香りや芳香成分の吸引によって脳神経活動に様々な影響が観察できることが報告されています。また、精神科領域ではアロマセラピーを治療の一環に使用する研究も多く行われており、うつ病や多動症の患者の症状を改善させることも明らかになってきています。しかし、アロマセラピーで使用される精油がどのような機序で脳機能に影響を与えるかは明らかになっていません。
そこで、私たちの研究室では精油がどのように脳機能に影響を与えるかをヒトやマウスにて検証しています。ヒトでは近赤外分光法(NIRS)や脳波計を用いて、精油の香りによる脳活動量の変化を調査し、マウスにおいては、脳神経活動の変化を観察することで、精油による抗ストレス作用や摂食調節作用を検証しています。

精油の筋肉に対する抗疲労効果の検証
近年では、スポーツの現場においてアロマセラピーが新たなコンディショニング法として注目されています。スポーツの現場で使用されるアロマセラピーを特にスポーツアロマと呼び、マッサージオイルに精油を混ぜて使用されています。しかし、マッサージに使用されるオイルの効果を科学的に検証した研究は多くありません。そこで、私たちはマッサージに使用される精油が筋肉においてどのように疲労回復効果を示すのかを明らかにするために、筋損傷モデルマウスおよび培養細胞を用いた研究を行っています。筋損傷モデルマウスはマウスに筋損傷を与え、筋損傷部位に精油を塗布することで筋損傷部位の回復効果を観察しています。また、培養細胞では、マウス筋芽細胞に電気刺激を与えて運動細胞と呼ばれる「in vitro Exerciseモデル」を使用して精油が筋肉にどのような影響を与えるのかを調査しています。

神経ペプチドPACAPの
機能形態学的解析

神経ペプチドは神経系に発現し生理活性を示すペプチドの総称です。神経ペプチドの1つである下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(Pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide :PACAP)は、視床下部から下垂体前葉細胞のアデニル酸シクラーゼを活性化する作用を指標に、単離・同定されました。PACAPは、神経細胞の分化・生存維持や神経前駆細胞のニューロンやグリア細胞への分化誘導作用、膵臓B細胞におけるグルコース依存的インスリン分泌の促進作用、脊髄後角での痛覚抑制調節、涙液分泌促進作用など、多くの生理作用を持つことが報告されています。これらの作用はPACAPのもつ3つのGタンパク質共役受容体(PAC1-R, VPAC1-R, VPAC2-R)によるものであると考えられています。
しかし、生体におけるPACAPの機能はいまだ明らかになっていない部分も多いため、それらの機能を明らかにすることで新規治療薬の開発を目指した研究を行っています。
PACAPによるアクアポリン活性化作用の解明
涙液や唾液、汗などの外分泌液は生体維持機能に重要な役割を持っており、これらの外分泌液が不足することでドライアイやドライマウス、ドライスキンなどのドライ症候群が発症することが報告されています。しかし、ドライ症候群の治療薬は開発されていません。そこで、近年明らかになったPACAPの持つAQP5活性化作用を介した外分泌促進作用に着目し、ドライ症候群の治療薬開発を目指して研究を行っています。

PACAPによる脳内タウタンパク分解促進作用の検証
近年、PACAPの新たな機能として、認知症の原因の一つとして知られているタウタンパク質の分解促進作用を持つことが報告されています。これまでの研究から、PACAPはPAC1-Rを介して、プロテアソーム活性を亢進させることでタウタンパクの分解促進作用を持つと考えられています。しかし、PACAPのもつタウタンパク分解促進作用の詳細な機序は明らかになっていない部分も多いため、当研究室で作製したPAC1-R欠損マウスを用いてPACAPのタウタンパク分解促進作用の機序を解明し、新たな認知症治療薬の創薬を目指しています。
